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小編:白花と魔方陣2

万有引力とは

ひき合う孤独の力である

宇宙はひずんでいる

それ故みんなはもとめ合う

(谷川俊太郎『二十億光年の孤独』)​

【ロテュス:某日某時刻:魔方陣】

 泣いているように見えた。

 

 白い花の魔力の雫がゆっくりと天に昇っていく。空に降る雨の中、一人で彼女は立っていた。

 

 一瞬、彼女の姿がかつての同胞と重なった。今にも飛んでいってしまいそうな背中、湖に身を投げてしまいそうな表情――

 

 ……やめろ!ハンナを連れて行かないでくれ、マーシィ!

 気がつくと僕は、彼女の腕を強く掴んでいた。

「ハンナ、僕と一緒に来るんだ」

 振り向いた彼女は少しの間きょとんとしていたが、すぐにフフッと笑ってからかうように言った。

「お前、デートの誘いくらいもう少しスマートにできないのか?」

 きっと、僕の神妙な顔つきが面白かったのだろう。よかった。彼女はハンナだ。安堵の溜息を漏らしながら誤魔化し笑いをする。

「女慣れしてなくて悪かったね、こう見えて緊張してたんだよ」

「緊張?お前が?私に?」

「笑うなってば……いいから、ほら行くよ。牡丹もたい焼き屋で待ってるし」

 彼女の華奢な腕をゆっくりと掴み直して、僕は歩き出した。

 マーシィ、君には悪いけど、まだハンナをそっちに行かせるわけにはいかない。

 君たちの分まで生きる。それが、生き残った者に課せられた使命なのだから。

(2019.07.27)

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